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[旅の日記]

ヘルシンオア Helsingør  

 本日はヘルシンキから1時間足らずのヘルシンオア Helsingørを訪れます。
ヘルシンオアに着くと、ホームを出て駅舎に向かいます。
ヨーロッパですので改札があるわけでもなく、いきなり駅舎に入ります。
その駅舎が実に立派なのです。
ツートンカラーの床、重厚な階段の手すり、天井に吊るされたシャンデリアなど、城の一角を思わせるような造りです。
重いドアが自動で開き外に出ると、4階建煉瓦造りの駅舎の外形が顔を表します。
趣があり、大切に使い続けてきた駅であることが判ります。

 駅の前は、すぐに港になっています。
ちょうどこの時もスウェーデンからの船が着いたばかりです。
海外からの寄港というのに、バスや電車が着いた時のように騒ぐこともなくごく普通の乗り降りが行われています。
港の先には、海の向こうに城が見えます。
これこそが、本日の目的である「クロンボー城 Kronborg Slot」なのです。
それでは城に向かって歩いて行きましょう。

 途中、帆船が泊まっています。
観光船なのかレストランなのかと首をかしげてしまいますが、後程その疑問が解決することになります。
港には四国のどこかで見たことのある魚のオブジェがあります。
しかしよく見ると、それは流れ着いたゴミを集めて造られているのです。
ホースや皿、車のホイールカバー、雪かきのスコップなど、うまく魚の形にしています。
感心しながら、次第に大きく見えてくる「クロンボー城」を目指します。

 港からは堀に架かる橋を渡り、正面のゲートを通り抜けます。
その中にはさらに城を囲む堀があり、白鳥が優雅に泳いでします。
城門まで堀に沿って進みます。
そこには重厚な橋とそれに続く城門があり、ここを通らなければ場内に入ることはできません。
それでは先に進むことにします。

 ロの字型の城の中庭に入る前に、海を眺めてきます。
南にはバルト海に続くエーレスンド海峡 北には北海に続くカテガット海峡に面する海上交通の要となるところです。
多くの大砲が海を向いて配置されています。
この城が海上防衛のための城であったことを、物語っているかのようです。

 それではここから城内に入ってみましょう。
城の中の各部屋を見学することができます。
今回はコペンハーゲンカードを購入していたので、コペンハーゲンの乗り物やほとんどすべての施設入場が無料になるだけでなく、ヘルシンオアまでの交通費やこの城の入場料までもが不要です。
カード片手に室内に入って行きます。

 カルマル同盟の盟主となったデンマーク王エーリク7世が、1420年代にこの地に砦を築きます。
北欧統一に疲弊しきった経済を立て直すために、エーレスンド海峡通行税の徴収を目的としてこの城が建設されました。
1585年には、フレゼリク2世の命により要塞機能と王宮としての大改築が加えられます。
この時に四方を翼廊に囲まれ外縁部に塔を備えたルネサンス様式の今の建造物へ変身していきます。
その後は大火による焼失で建替えられ、バロック様式が加わります。
1658年にはスウェーデンのカール・グスタフ・ウランゲルに攻められて落城しますが、彼らが城を放棄するまでスウェーデンの支配下に置かれます。
再びデンマークのものとなった「クロンボー城」は外郭の強化が行われますが、クリスチャン7世の妃カロリーネ・マティルデがクーデターの発生で囚われ幽閉されたときの除けば、王が居住することはなかったのです。

 そして何よりもこの城を有名にしたのは、シェイクスピアの戯曲「ハムレット」の舞台となったことです。
「ハムレット」で登場する「エルシノア城」は、この「クロンボー城」を描いたものなのです。
デンマーク王ハムレットが急死し、妻ガードルートはすぐに王の弟クローディアスと再婚してしまいます。
そのことにハムレット王の息子は絶望し、私生活は荒れていきます。
城には死んだハムレット王の亡霊が現れるという噂が立ち、息子は確かめてみます。
すると亡霊は自分がクローディアスに殺されたことを告げます。
これを聞いた息子は、クローディアスへの復習を誓うといった物語です。
「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」の言葉が有名ですが、実はそれに続く言葉があるのです。
「どちらが男らしい生き方か、じっと身を伏せ、不法な運命の矢弾を堪え忍ぶのと、それとも剣をとって、押し寄せる苦難に立ち向い、とどめを刺すまであとには引かぬのと、一体どちらが。」

 城内を1部屋ずつ見て回り、ローレンスオリビエが演じる白黒映画「ハムレット」の心情を感じていきます。
またあの映画を見直してみたくなったのでした。
さて売店では王冠をつけたカエルの像が売られています。
カエルの王様はグリム童話で、デンマークのアンデルセンでもないのに、何だったのでしょうか。

 城を出ようとした時に、場内に先ほどとは違ったもうひとつの入口があることに気付きました。
中に入ってもスタッフルームのような観光用の通路とは思えないようなところです。
興味半分で真っ暗な通路を進んでみると、その先は地下に入って行きます。
そして奥には大きな像があるのです。
そうです、思い出しました。
デンマークの伝説上の英雄ホルガー・ダンスク Holger Danskです。
デンマーク国家が存亡の危機に直面した際に、目覚めて敵を倒し祖国を救うといわれる巨人がここに眠っているのです。
地下にはこのほかにも地下牢もあるということです。

 これですべを見終え、城を後に再び街にでます。
レンガ造りの建物は「航海博物館 Mads Holms mindesøjle」です。
ここで港に置かれている帆船の謎が解けたのでした。

 通りを越えて街中に入ると、窓掃除をしている地元民を見つけました。
窓を開けて雑巾がけするのが我々の常識ですが、ここでは長い長い竿の先にモップをつけそとから拭き掃除をするのです。
4階の窓まで一気に片づけてしまうのは、この人だけなのかあるいはこの地方のやり方なのでしょうか。

 街中にはかわいらしい建物が並んでいます。
その先の尖がり帽子が、「ルーテル教会 Sankt Olai Kirke」です。
この辺りでひときわ高い建物です。

 町には人通りもちらほら。
ここは、来た電車でコペンハーゲンまで戻って、食事を取ることにします。
ヘルシンオア駅には、「航海博物館」の横を走っていた黄色い車体が停まっています。
ここよりさらに先に進む列車です。

 さて本日は、地元の人が通うレストランに行きます。
地元で人気の店とあって、すぐには座れません。
席を待つ間に飲む飲物を聞かれ、瓶ビールを片手に待ちます。
意外と早く席は着くことができ、家庭料理を注文します。
牛のミンチ肉はいわゆるハンバーグ Parisien Bøf、そして豚肉は軟骨に柔らかくなるまで火を入れカリカリと音を立てながら食べます。
どちらも味が良く絶品です。
こうしてヘルシンオアの「クロンボー城」を訪れた1日が終わったのでした。

     
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