[旅の日記]
十分 十分 
今回訪れたのは、「十分」です。
台湾国鉄の瑞芳駅から同じ国鉄の平渓線で30分程度の場所にあります。
それでは瑞芳駅で黄色とオレンジに塗られた列車に乗ります。
平日というのに観光客と思われる人だかりで、3両編成の列車は座るのがやっとです。
ホームに来るのが少し遅ければ、立っておかなければならないところでした。
木々をかき分け列車は進んでいきます。
山の中を走るだけあって、ゆっくりですが力強く進みます。
途中の駅から遠足とみられる小学生の団体が乗ってきました。
車内はぎゅうぎゅうの混雑でなかなか扉が閉まらず、全員が乗り切るまで小さな駅で5分ほど格闘していました。

そして到着した十分駅では、小学生の団体を残した大部分の乗客が一挙に降ります。
これまた列車が発車できないほどに、ホームに人が溢れています。
思ってもみなかった混雑に、国鉄も混乱したことでしょう。

改札を抜けると、そこには商店街が広がります。
ホームと同じ幅の通路が続くので、混雑はなかなか解消されません。
商店街は道路の両側に分かれ、その中央を線路が貫いています。
知らず知らずのうちに、どうやら「十分老街(シーフェンラオジェ)」に入ったようです。
線路の反対側に行きたければ、線路をまたいで行けばよいのです。
商店街には飲食物、土産物、そしてランタンの店が並びます。
サワガニをその姿のまま揚げたものに、興味が注がれます。
商店街にランタンの店?と思うでしょうが、ここ十分ではランタンを飛ばす「阿媽的天灯」が盛んです。
ランタンを買えば墨と筆が準備され、そこに願いごとを書きます。
書き終えると線路の真ん中に陣取り、火がつけられて浮力を得たランタンを放つだけです。
線路のあちこちから、ひっきりなしにランタンが上がっていきます。

その時、列車がやってきました。
線路の上でランタン上げを構えていた人々が、一斉に非難します。
この人ごみをかき分け、時折やってくる列車は慎重に進みます。
商店街からも連射からも互いに手を振り合っている、ほほえましい風景なのです。

さて十分にはもうひとつの観光名所があります。
「十分瀑布(シーフェンプーブー)」と呼ばれる滝です。
「十分老街」から伸びる遊歩道を20~30分ほど進んだところにあります。
滝に近づくと2本の橋があり、それを渡ったところで滝が見えます。
面白いことにより滝を過ぎて先に進む、すなわち遠ざかるほど、正面から滝全体が見えるのです。
そしてここにはちょっとした売店があり、飲み物が並んでいます。
歩いてきただけあって、台湾ビールが美味しいです。
滝で心が現れると、再び「十分老街」方向に戻っていきます。
相変わらずランタン屋は儲かっているようです。
先ほどにも増して、線路上に人が溢れかえっています。
十分駅の横にある吊り橋を渡っておきます。
「静安吊橋」と呼ばれる橋で、十分里と南山里をつなぐ全長128mの連絡橋です。
基隆河を跨ぐこの橋は1947年に炭鉱を運ぶために建設されたもので、炭鉱での採掘が終了した今ではこうして歩行者が通行できる吊り橋へと整備されました。
十分自体は、小さな田舎町です。
ここにランタン上げという巨大産業が宿っている状態です。
面白いビジネスモデルだと、妙なところに感心したのでした。
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